片麻痺患者では筋シナジーの併合が認められる

 

歩行の非対称性は、下肢の筋活動のタイミングの障害に関連しており、立脚相や遊脚相の様々な局面で観察される下肢筋活動の異常パターンが,非対称性の特性の違いに影響を与えると考えられている.

歩行などの複雑な運動タスクの遂行には、運動モジュール(筋シナジー)を用いることが示唆されている。シナジーとは、タスクを実行するために神経コマンドによって募集することができる筋肉のグループである。(Safavynia and Ting, 2012)

 

今回は健常歩行と片麻痺患者の筋シナジーについて以下の論文を紹介します。

1)Modular Control of Human Walking: A Simulation Study

2)Merging of Healthy Motor Modules Predicts Reduced Locomotor Performance and Muscle Coordination Complexity Post-Stroke

David J. Clark,1,2 Lena H. Ting,3 Felix E. Zajac,4 Richard R. Neptune,5 and Steven A. Kautz1,2,2009

【正常歩行】

常歩行では4つの独立した筋シナジーで構成されている。

 

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1Richard R. Neptune,2009

モジュール1:大殿筋、中殿筋、大腿直筋

立脚初期の身体支持に寄与

モジュール2:ヒラメ筋、内側腓腹筋

立脚後期の身体支持と体幹推進に寄与

モジュール3:大腿直筋、前脛骨筋

遊脚の初期と後期において脚を減速させる働きをしながら、遊脚全体を通して体幹にエネルギーを発生

モジュール4:ハムストリングス

立脚初期に脚のエネルギーを増加させながら、遊脚後期に脚からエネルギーを吸収する(脚を減速させる)ように作用

 

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David J Clark,2009

図2:健常歩行 快適歩行速度の筋活動

前脛骨筋(TA),ヒラメ筋(SO),内側腓腹筋MG),内側広筋(VM),大腿直筋(RF),内側ハムストリングスMH),外側ハムストリングスLH),内側広筋(GM

片麻痺患者】

脳卒中後の患者では、いくつかのモジュールのタイミングが一致しているため、独立したタイミングを持つモジュールの数はしばしば少なくなる。

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David J. Clark,2009

図3:常歩行では4つのモジュールが必要であるのに対して、麻痺のある脚では、2モジュールまたは3モジュールしか必要としないものが多かった。

独立したモジュールが多いほど、運動出力の複雑さが増すことを反映している

2モジュール(低複雑度群)

3モジュール(中等度複雑度群)

4モジュール(高複雑度群)

 

●低複雑度群(2モジュール)

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David J. Clark,2009

図4

Module L1:足関節背屈筋TAを除くすべての筋を強く表し、主に立脚相で活性化した

ModuleL2:前脛骨筋と大腿直筋の活動が主で、遊脚相で活動。健常モジュールのC3と同様の活動(図2参照)

 

●中等度複雑群(3モジュール)では2つのカテゴリーが観察された。

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David J Clark,2009

図5

Module M1b:足関節底屈筋だけでなく、より近位の伸筋も強く表出する、立脚全体で活動するモジュールを有していた

Module M2b:健常歩行のモジュール3と同様の活動(図2参照)

Module M3b:健常歩行のモジュール4と同様の活動(図2参照)

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David J Clark,2009

図6

Module M1b:健常歩行のモジュール2に類似している(図2参照)

Module M2b:健常歩行のモジュール3に類似している(図2参照)

Module M3b:近位伸筋はハムストリング筋と同じモジュールに出現し、健常モジュール14の組み合わせに類似していた。

 

健常者の快適歩行速度での筋活動では、独立した4つのモジュールが存在するが、

脳卒中後の患者では、独立したタイミングを持つモジュールの数はしばしば少なくなり、

モジュール1とモジュール2、またはモジュール1とモジュール4の合併を示すことがこの研究で明らかとなった。

 

【まとめ】

歩行速度の低下や左右の非対称性には筋シナジーの併合が関与していると言われています。シナジーを複雑化できる介入を行うことが重要です。次回、理学療法について報告できればと思います。