Gait Solutionが歩行機能に及ぼす影響

Gait Solutionはヒールロッカー時の足関節底屈運動を許しながら、荷重応答期において、底屈制動力により前脛骨筋による遠心性収縮の機能を補い、麻痺側への滑らかな荷重の受け継ぎを促す目的で開発された。

山本澄子:動作分析にもとづく片麻痺者用短下肢装具の開発,理学療法科学,18(3),115-121,(2003).

 

Yamamoto S, Fuchi M, Yasui T. Change of rocker function in the gait of stroke patients using an ankle foot orthosis with an oil damper: immediate changes and the short-term effects. Prosthet Orthot Int. 2011 Dec;35(4):350-9. 

今回は、Gait Solutionの使用による効果について以下の論文を紹介します。

  1. Yamamoto S, Fuchi M, Yasui T. Change of rocker function in the gait of stroke patients using an ankle foot orthosis with an oil damper: immediate changes and the short-term effects. Prosthet Orthot Int. 2011 Dec;35(4):350-9. 
  2. Ohata K, Yasui T, Tsuboyama T, Ichihashi N. Effects of an ankle-foot orthosis with oil damper on muscle activity in adults after stroke. Gait Posture. 2011 Jan;33(1):102-7. 

1.GSを使用した場合の即時的及び短期的な効果

条件:AFOなし,AFO-ODあり,3週間の継続使用と歩行訓練後のAFO-ODあり

 

図:3つの歩行条件(n¼8)の歩行パラメータの平均値と標準偏差、および統計解析の結果

 

●GSによる直接的な変化は、歩行速度の増加遊脚時間の短縮非麻痺側の歩幅の増加  であった。

●3週間のAFO-OD使用と歩行訓練により、歩行速度のさらなる向上遊脚時間短縮非麻痺歩幅の増加、麻痺側足関節周囲の角度の改善がみられた。

●歩行時のセカンドロッカー機能に関するパラメータでは、立脚時のピーク背屈角度AFOなし15.11からAFO-OD使用3週間後には20.36度へ変化した。

図:3つの実験条件での歩行速度と足関節底屈筋のピークモーメントの変化

●3週間の継続使用と歩行訓練により歩行速度に影響するされる足関節底屈モーメント有意に増加することが示された。

 

2.GSと底屈制限装具の比較

図:AFO-ODAFO-PSを用いた腓腹筋の生データ

●AFO-ODAFO-PSと比較して,荷重応答期の腓腹筋振幅を有意に減少させた。

GSによるスムーズな足底屈運動は,伸張反射による過剰な活動を抑制している可能性がある.

 

〈まとめ〉

 GS使用は即時的に歩行速度,時空間パラメータ,足関節背屈の角度変化が改善された。また短期的な効果としては3週間のAFO-ODの継続使用と歩行訓練により,歩行速度と時空間パラメータのさらなる改善,立位での麻痺肢の足関節の背屈角度と足底屈曲モーメントの増大がみられた。GSの使用は1st rockerを補助することで2nd rockerに影響を及ぼすことが検証された。

また底屈制限装具と比較し荷重応答期の腓腹筋の過剰収縮を軽減させることが検証された。

 一方でGSの適応に関しては、麻痺レベルや筋緊張を考慮する必要があると考えらえる。そして運動学的パラメーターに関しては、先行研究が少ないため今後の課題であると考えられる。

 

 

片麻痺患者では筋シナジーの併合が認められる

 

歩行の非対称性は、下肢の筋活動のタイミングの障害に関連しており、立脚相や遊脚相の様々な局面で観察される下肢筋活動の異常パターンが,非対称性の特性の違いに影響を与えると考えられている.

歩行などの複雑な運動タスクの遂行には、運動モジュール(筋シナジー)を用いることが示唆されている。シナジーとは、タスクを実行するために神経コマンドによって募集することができる筋肉のグループである。(Safavynia and Ting, 2012)

 

今回は健常歩行と片麻痺患者の筋シナジーについて以下の論文を紹介します。

1)Modular Control of Human Walking: A Simulation Study

2)Merging of Healthy Motor Modules Predicts Reduced Locomotor Performance and Muscle Coordination Complexity Post-Stroke

David J. Clark,1,2 Lena H. Ting,3 Felix E. Zajac,4 Richard R. Neptune,5 and Steven A. Kautz1,2,2009

【正常歩行】

常歩行では4つの独立した筋シナジーで構成されている。

 

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1Richard R. Neptune,2009

モジュール1:大殿筋、中殿筋、大腿直筋

立脚初期の身体支持に寄与

モジュール2:ヒラメ筋、内側腓腹筋

立脚後期の身体支持と体幹推進に寄与

モジュール3:大腿直筋、前脛骨筋

遊脚の初期と後期において脚を減速させる働きをしながら、遊脚全体を通して体幹にエネルギーを発生

モジュール4:ハムストリングス

立脚初期に脚のエネルギーを増加させながら、遊脚後期に脚からエネルギーを吸収する(脚を減速させる)ように作用

 

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David J Clark,2009

図2:健常歩行 快適歩行速度の筋活動

前脛骨筋(TA),ヒラメ筋(SO),内側腓腹筋MG),内側広筋(VM),大腿直筋(RF),内側ハムストリングスMH),外側ハムストリングスLH),内側広筋(GM

片麻痺患者】

脳卒中後の患者では、いくつかのモジュールのタイミングが一致しているため、独立したタイミングを持つモジュールの数はしばしば少なくなる。

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David J. Clark,2009

図3:常歩行では4つのモジュールが必要であるのに対して、麻痺のある脚では、2モジュールまたは3モジュールしか必要としないものが多かった。

独立したモジュールが多いほど、運動出力の複雑さが増すことを反映している

2モジュール(低複雑度群)

3モジュール(中等度複雑度群)

4モジュール(高複雑度群)

 

●低複雑度群(2モジュール)

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David J. Clark,2009

図4

Module L1:足関節背屈筋TAを除くすべての筋を強く表し、主に立脚相で活性化した

ModuleL2:前脛骨筋と大腿直筋の活動が主で、遊脚相で活動。健常モジュールのC3と同様の活動(図2参照)

 

●中等度複雑群(3モジュール)では2つのカテゴリーが観察された。

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David J Clark,2009

図5

Module M1b:足関節底屈筋だけでなく、より近位の伸筋も強く表出する、立脚全体で活動するモジュールを有していた

Module M2b:健常歩行のモジュール3と同様の活動(図2参照)

Module M3b:健常歩行のモジュール4と同様の活動(図2参照)

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David J Clark,2009

図6

Module M1b:健常歩行のモジュール2に類似している(図2参照)

Module M2b:健常歩行のモジュール3に類似している(図2参照)

Module M3b:近位伸筋はハムストリング筋と同じモジュールに出現し、健常モジュール14の組み合わせに類似していた。

 

健常者の快適歩行速度での筋活動では、独立した4つのモジュールが存在するが、

脳卒中後の患者では、独立したタイミングを持つモジュールの数はしばしば少なくなり、

モジュール1とモジュール2、またはモジュール1とモジュール4の合併を示すことがこの研究で明らかとなった。

 

【まとめ】

歩行速度の低下や左右の非対称性には筋シナジーの併合が関与していると言われています。シナジーを複雑化できる介入を行うことが重要です。次回、理学療法について報告できればと思います。

 

 

 

脳卒中後72時間以内の座位バランス、麻痺側の機能が6ヶ月後の自立歩行の予測因子となる

今回は、脳卒中6カ月後の自立歩行の予後予測についてです。先行研究では、脳卒中24週目に測定した片麻痺脚の筋力および座位バランスが、6ヵ月後の歩行能力の改善および自立歩行達成と有意に関連するとされています。しかし急性期の機能評価から予後予測している文献は少ないように考えます。今回は急性期における予後予測についての論文を紹介します。

 

Is Accurate Prediction of Gait
in Nonambulatory Stroke Patients Possible Within 72 Hours Poststroke? The EPOS Study

J. M. Veerbeek, MSc1, E. E. H. Van Wegen, PhD1,
B. C. Harmeling–Van der Wel, PT
2, and G. Kwakkel, PhD1, for the EPOS Investigators

 

 

back graound

 脳卒中患者の約60%〜80%が、脳卒中6カ月の時点で自立歩行が可能であることが示されている。

多くの予後予測研究によると、年齢、 感覚および運動機能障害の程度、 同名半盲、座位バランス、入院時の初期障害意識、脳卒中発症から最初の評価までの日数 が、脳卒中発症後 6 カ月の歩行結果と関連していることが示唆されています。

 

 

研究の目的は

脳卒中6カ月の自立歩行が脳卒中72時間以内に正確に予測できるかどうかを調べること。

5日目と9日目の早期再評価が、脳卒中6カ月の自立歩行の回復という転帰を予測する精度に与える影響を調べることであった。

 

○Methods

自立歩行ができない初発の虚血性脳卒中患者154名を対象に,19の人口統計学的および臨床的変数を,脳卒中72時間以内,および5日目と9日目に再評価した。

多変量ロジスティックモデルを用いて、Functional Ambulation Categories4点以上と定義された自立歩行を取り戻すための早期予後因子を特定した。

 

○Result

表2:二変量ロジスティック回帰分析によって決定された、脳卒中後6ヵ月間の自立歩行に関連する72時間以内の障害・疾患(N = 154)

脳卒中発症後72時間以内の評価を対象とした二変量ロジスティック回帰分析で求めた、6ヵ月後の自立歩行のORとその95CIである。19個の候補変数のうち、15個が脳卒中6ヵ月目の自立歩行の回復に有意に関連していた

 

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表3脳卒中6ヵ月で自立歩行を達成する確率

多変量回帰分析で15の有意な決定要因候補をすべて同時にテストした結果、TCTバランスとMIレッグスコアで有意な値が算出された。

TCT-sスコアが最大25点(例えば、30秒間の座位保持が可能)で、MI legスコア(片麻痺側の筋力:3項目股関節、膝関節、足関節)が25点以上(例えば、収縮が見られるが、すべての動作ができない)の患者が、自立歩行を達成する確率は最大で98

 

最初の72時間にこれらの特徴がなかった場合の確率は27%で、9日目には10%に低下した

 

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○Conclusion

脳卒中後すぐに、2つの簡単なベッドサイドテストを用いて、自立歩行の正確な予測が可能である。「座位バランス」と「片麻痺脚の筋力」という2つの簡単なベッドサイドテストで、自立歩行性能を正確に予測することができる。この知識は、病院の脳卒中病棟での治療目標や退院計画に関する早期の臨床判断に有用である。

 

*1

今回の研究により、発症早期の歩行自立に関連する予測因子が確立されました。

予後予測は、適切な治療目標の立案や、患者・家族への情報を提供する際に必要であり、そのためには確立されたデータを基に予測することが重要です。

*1:まとめ

補足運動野へのrTMS刺激はすくみ足に有効である

 

 

今回は、すくみ足に対して補足運動野(SMA)への反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の有効性について以下の論文を紹介します。

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Stimulation in Supplementary Motor Area Versus Motor Cortex for Freezing of Gait in Parkinson's Disease

 SJ Kim, SH Paeng, SY Kang - Journal of Clinical Neurology, 2018 - synapse.koreamed.org

 

Background and Purpose

すくみ足(FOG)はパーキンソン病(PD)の症状の一つで、「歩こうと思っているにもかかわらず、足が前に出ない、または著しく減少する」と表現されます。

 rTMSがPDの運動機能を改善することが示唆されているが、FOGについては言及されていない。補足運動野(SMA)は大脳基底核-皮質運動ループの重要な領域であり,PDでは障害されており,FOGを伴うPDではFOGを伴わないPDに比べて活性化が低いことから,補足運動野が有効である可能性がある。

FOGに対するrTMSの効果を検討した数少ない研究では、多様な刺激方法の適用やFOGの予測不可能性およびエピソード性に起因すると思われる一貫性のない結果が得られている。我々の目的は、FOGを軽減するために大きな反応を示す脳刺激部位を見つけることである。

 

Methods

FOGを持つ12人のPD患者を対象とした。補足運動野(SMA)と運動野(MC)への反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の治療効果を検討した

rTMS治療の前後で,立位-歩行-座位のテストにおけるステップ数,完了時間,および凍りつきエピソードを測定した。また、FOGを誘発する2つの課題でも凍りつきエピソードを検証した。

 

アウトカム測定

●1日目のrTMS適用前と2日目のrTMS適用直後に立ち上がり、10m歩き、後ろを振り返り、できるだけ早く座るというSWS(Stand-Walk-Sit)テストを患者に行ってもらった。FOGを誘発するために、患者は制限された場所で停止した状態から、左回りに2回、右回りに2回、ランダムな順序でできるだけ速く360°回転させた。

●実験2日目の終了時に、rTMSの効果を評価するために、Patient Global ImpressionおよびClinical Global Impression評価尺度を適用した。SWSテスト、rapid-full-turnテスト、SWSテスト中の二重課題中の凍りつきエピソードを分析した。

 

 

 

Results

SWSテスト(p=0.097)とrapid-full-turnテスト(p=0.071)における凍りつきエピソードの相対的変化の傾向が見られた。SMA群ではMC群に比べて凍りつきエピソードが少なかった(Table 1)。二重課題では変化は見られなかった。

 

 

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Conclusions

今回の結果から、FOGを有するPD患者の治療において,SMAが脳刺激のより適切な標的であることを示唆するものである

本研究は、rTMSを用いてSMAを刺激することがFOGに有効であることを示しており、今後の治療法の開発に役立つ可能性がある。